課徴金は行政が罰金は司法が判断するもので手続も異なる

薬機法に課徴金制度が導入されようとしています。課徴金とは、違法行為があったときに課せられる経済的な不利益ですが、罰金とはなにが違うのでしょうか。また、同じ違法行為に対して課徴金と罰金の両方を払うことはあるのでしょうか。現行で課徴金制度を持つ法律も含めて、課徴金と罰金についての基本を抑えておきましょう。

課徴金と罰金は法的な性格が異なる

課徴金と罰金は、どちらも法的に問題がある行いがあったときに支払い義務が生じえる点は同じです。しかし、その法的な性格はまったく異なります。

課徴金は不適法な行為に対して課される処分

課徴金とは、不適法な行為に対して課される処分です。よく知られているものに、公共工事における同業者間の談合に対して課される課徴金があります。談合という不正行為が発覚すれば課徴金を取られるという意識が談合を予防する効果を持つとされています。薬機法においても課徴金制度の導入が現実のものとなりつつあります。

罰金は犯罪に対して科される処罰

罰金は犯罪行為に対して科される刑事罰です。したがって、犯罪以外で罰金が科されることはありません。巷で俗にいう「無断駐車は1万円の罰金をいただきます」とか、「店に遅刻したら罰金」などの罰金と法律上の罰金は異なります。そもそも、罰金を科すことができるのは司法だけです。

課徴金と罰金とでは決定の手続が異なる

課徴金と罰金では、当然ながらその決定に至る手続もまったく異なります。

課徴金は行政の判断で課される

課徴金を課すのは行政です。違法行為があったときに、法律の定めによって課徴金を課します。課徴金制度を持っている法律では、課徴金の納付命令対象となる事象について、一部の例外を除き命令しなければならないと規定されています。つまり、行政の裁量権はなく、納付命令をしないことは許されません。

罰金を科すのは裁判所

一方、罰金は刑事訴訟法に基づく裁判の判決で科される刑罰の一種です。つまり、罰金は裁判所でなければ科すことができません。そのため、犯罪に該当する違法行為があったとしても、捜査機関が適法に捜査し、検察官が公判請求をして刑事裁判が行われるか、略式請求をしない限り科されないのが罰金です。(例外的に検察審査会の起訴相当の議決を経て起訴され、裁判の結果、罰金刑の判決を受けるという流れがあります)

どのような行為が犯罪に該当するかは、罪刑法定主義に基づき、名文で各法令に定められています。刑法などの刑事法や各法令で罰金刑が定められている場合でなければ罰金を払う義務は生じません。

ちなみに、罰金の支払いは検察庁に行います。裁判の執行(簡単にいえば刑を実施に移すこと)は検察の仕事だからです。罰金を払えないときは労役場留置となり、1日5,000円換算(罰金が巨額の場合は換算額も大きくなります)で罰金を作業で支払う換刑となることがあります。しかし、課徴金を作業で払うことはできません。裁判所には裁判で課徴金を取り消す機能もあります。

課徴金制度が導入されている分野は少数

課徴金制度が導入されている分野は多くはありません。罰金という言葉はよく聞くのに、課徴金はあまり聞かないのも、広く活用されている制度ではないことが理由として考えられます。

課徴金制度を持っている法律

従来から課徴金制度を採用している法律には、独占禁止法、金融商品取引法、公認会計士法、景品表示法の4法があります。それぞれの法律の中も、課徴金の対象となっている行為を例示します。
・独占禁止法…カルテルや入札の談合、優越的地位の乱用など
・金融商品取引法…風説の流布や偽計、インサイダー取引など
・公認会計士法…故意や相当注意義務違反による虚偽証明
・景品表示法…優良誤認表示や有利誤認表示

罰金との二重処罰問題

課徴金も罰金も法律違反に対するものであるため、両方が適用される場合が考えられます。そこで指摘されているのが二重処罰の問題です。

二重処罰にあたるのではないかとする意見もあるものの、現在の裁判所の考え方では、両方が適用されたとしても二重処罰にはあたらないとなっています。違法に得た経済的利益を行政が取り上げることで公正の確保を図り、予防的効果も狙う趣旨の課徴金と、犯罪に対する制裁として科される罰金とではまったく性質が異なるのがその主な理由です。

景品表示法にも課徴金と罰金がある

前述のとおり、現行法では景品表示法にも課徴金制度と罰金の両方があります。また、薬機法にも課徴金制度の導入が現実味を帯びてきました。

景品表示法の課徴金と罰金

景品表示法で課徴金の対象となるのは、優良誤認表示と有利誤認表示です。課徴金の額は、定められた計算式で算出した売上高の3%となっています。同時に、これらの違反を犯した者が、内閣総理大臣が発する行為の差し止めなどの命令に違反する場合に科されるのが、2年以下の懲役または300万円以下の罰金です。場合によっては、懲役と罰金の両方を科されます。

ただ、この場合は優良誤認表示などを行ったことに対する課徴金と、その後の命令に従わなかったことに対する刑罰という違いがあり、二重処罰の問題とは違います。

薬機法の課徴金と罰金

導入が取り沙汰されている薬機法の課徴金と罰金について見てみます。厚生労働省の公表資料によれば、課徴金の対象となるのは以下の違反についてです。
・第66条に規定する誇大広告等
・第68条の承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止

この2つの違反については、2年以下の懲役か200万円以下の罰金となり得ます。また、
併科される可能性まであります。こちらは景品表示法と異なり、課徴金と両方になるケースもあるでしょう。

▽まとめ

課徴金も罰金も適法な活動には無関係

薬機法にも課徴金が導入される可能性が高まってきました。従来の罰金に加えて課徴金まで課される事態も起こり得るわけですが、そもそも違法行為をした場合の話です。とはいえ、課徴金や罰金の対象となる誇大広告等は見極めが難しい部分でもあります。そのため、より薬機法に詳しくなることが求められているといえるでしょう。この機会に、薬事法管理者になることを検討するとよいかもしれません。そのための試験対策講座もあります。

薬機法の理解を深めて合法的に活動すれば、課徴金にも罰金にも無関係です。

▽参考情報

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000406577.pdf
https://minamitani-lawyer.at.webry.info/201406/article_2.html
https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/dkkenkyukai/dokkinken-5_files/5kaisiryou-3.pdf

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